インド占星術とは、アーユルヴェーダやヨガと同じく、インドの伝統思想「ヴェーダ」における知識体系のひとつであり、「Jyotish(ジョーティッシュ)」とも呼ばれます。
「Jyotish(Jyotisha)」はサンスクリット語における「Jyoti=光」「Isha=神(魂)」が組み合わさった言葉で、一般に「光の科学」という意味で知られています。
本来のジョーティッシュは「星学」と呼ばれる天体の動きを研究する学問であり、その歴史はヴェーダ同様に大変古くから伝承されてきたものといわれます。
ジョーティッシュでは太陽系の星々(太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星)と、太陽と月の軌道の公転であるラーフとケートゥを加えた9つの惑星(ナヴァ・グラハ)、12の星座(ラーシ)、天空を月の移動距離で27分割した領域(ナクシャトラ)を使って分析していきます。
ジョーティッシュにおいてこれらの宇宙の要素は、私たちの生命や運命に大きな影響を与えているとされます。
特に誕生時における宇宙の状態、つまりは惑星や星座の配置は個人の傾向や性質と密接に関わっていると考えられています。
ジョーティッシュでは、9つの惑星と12の星座、27のナクシャトラにこれらの影響を集約させ、星図として表します。
そしてこの星図は天空360度を12の室に分割し(バーヴァ)、この図面に惑星や星座を描いていきます。
惑星や星座を12の室に描いた星図をインド占星術では「クンダリー(Kundli)」と呼んでいます。
西洋占星術でホロスコープと呼ばれるものです。
インド占星術において9つの惑星や12の星座は、黄道という、天空の太陽の軌道上で観察されます。
そしてこの黄道は天空を1日で1周していきます。
これらの考え方は西洋占星術と大きく変わりません。
しかしインド占星術が、天体の位置を実際の星座の位置に基づいて起点(牡羊座の0度)定めて星図を展開させていくのに対し、西洋占星術においては太陽暦の春分点(天の赤道と黄道の交点)から牡羊座の0度を始めていきます。
この春分点は、地球の地軸が少しずつずれているため、春分点もまた約70年に1度程ずれていっています。
そのためインド占星術における上昇点(アセンダント、地平線と黄道の交点)と西洋占星術の上昇点は、現在23~24度程ずれているのです。
インド占星術ではこの角度差のことを「アヤナムシャ」と呼んでいます。
結果として、インド占星術と西洋占星術における星座の位置自体にもずれが生じています。
このような天体の位置を算出する方法について、インド占星術は「サイデリアル方式」、西洋占星術は「トロピカル方式」と呼んでいます。
インド占星術におけるクンダリー(ホロスコープ)には北インド式と南インド式の二つの様式があります。
先ず北インド式の様式は、アセンダント(ASC)を中央上部に配置して、反時計回りに12星座を置いていきます。
北インド式の特徴はハウスの位置が固定されいることです。
そして牡羊座を1として牡牛座が2、双子座3の順に12の星座に数字を割り当て、対応するハウスに記載していきます。
一方、南インド式については、北インド式とは逆に12の星座が固定されており、各星座は時計回りに配置されています。
アセンダント(ASC)の位置が一人ひとり変わっていき、ハウスの位置も変わります。
そのため惑星がどのハウスに在住しているか等がわかりにくい反面、惑星と星座の関係(吉凶や強弱)やドリシティ(アスペクト)がわかりやすいメリットがあります。
インド占星術では、「太陽」「月」「水星」「金星」「火星」「木星」「土星」、これに太陽と月の交点「ラーフ」「ケートゥ」の2つを含めた、9つの惑星の天空における配置や位置関係を重要視しています。
9つの惑星は「ナヴァ・グラハ」と呼ばれ、サンスクリット語で「ナヴァ」は9つ、「グラハ」は惑星を意味します。
ヒンドゥー教では9つの星々にはそれぞれの神々がいると考え、9つの惑星の神々に祈りを捧げる「ナヴァグラハ・プージャ」という祈祷も行われます。
アーユルヴェーダにおいて、私たちの身体のドーシャの働きが、季節や生活する地域や環境から影響を受けると考えられているのと同じように、「ジョーティッシュ」では、天空の星々の配置や動きが、私たちの身体のバランスはもちろん、人生の流れにも影響を及ぼすと考えられています。
(スーリヤ/太陽)
惑星の住居:寺院、生来的吉凶:弱い凶星、方角:東。
支配星座:獅子座。
高揚星座:牡羊座、減衰星座:天秤座。
(チャンドラ/月)
惑星の住居:水辺、生来的吉凶:弱い吉星、方角:北西。
支配星座:蟹座。
高揚星座:牡牛座、減衰星座:蠍座。
(ブッダ/水星)
惑星の住居:競技場、生来的吉凶:弱い吉星、方角:北。
支配星座:双子座、乙女座。
高揚星座:乙女座、減衰星座:魚座。
(シュクラ/金星)
惑星の住居:寝室、生来的吉凶:吉星、方角:南東。
支配星座:牡牛座、天秤座。
高揚星座:魚座、減衰星座:乙女座。
(マンガル/火星)
惑星の住居:火のある場所、生来的吉凶:凶星、方角:南。
支配星座:牡羊座、蠍座。
高揚星座:山羊座、減衰星座:蟹座。
(グル/木星)
惑星の住居:宝物庫、生来的吉凶:吉星、方角:北東。
支配星座:射手座、魚座。
高揚星座:蟹座、減衰星座:山羊座。
(シャニ/土星)
惑星の住居:汚れた場所、生来的吉凶:凶星、方角:西。
支配星座:山羊座、水瓶座。
高揚星座:天秤座、減衰星座:牡羊座。
(ラーフ/RAHU)
生来的吉凶:凶星、方角:南西。
高揚星座:牡牛座、減衰星座:蠍座。
(ケートゥ/KETU)
生来的吉凶:凶星、方角:南西。
高揚星座:蠍座、減衰星座:牡牛座。
これらの9つの惑星は星座に在住することで、他の位置の星座に影響を与えていきます。
このような惑星からの影響をインド占星術では「ドリシティ」と呼んでいます。
インドの伝統思想「ヴェーダ」においては、この世界を織りなす「大宇宙」と、私たち個々の生命としての「小宇宙」は、その本質においては同じものである、という考え方があります。
ヴェーダ思想に基づくジョーティッシュでも、人体の各部はそのまま宇宙や天体の構成に対応していると考えます。
個人のチャート(ホロスコープ)に表れる惑星の動きは、そのまま人体の在り様にも照応するものと捉え、天体の動きやエネルギーもまた人体に影響を及ぼすものと考えられています。
(星座と人体各部の対応)
・牡羊座/メーシャ(Meshe) - 頭
・牡牛座/ヴリシャヴ(Vrishabha) - 顔
・双子座/ミトゥン(Mithuna) - 首・肩・腕
・蟹座 /カルカ(Karka) - 胸
・獅子座/シンハ(Simha) - 上腹部
・乙女座/カンニャ(Kanya) - 中腹部
・天秤座/トゥラー(Tula) - 下腹部
・蠍座 /ヴリシュチカ(Vrischka) - 生殖器
・射手座/ダヌ(Dhanu) - 太もも
・山羊座/マカラ(Makara) - 膝
・水瓶座/クンバ(Kumbha) - 脛
・魚座 /ミーナ(Meena) - 足