アーユルヴェーダが提唱する生活習慣や食事法、時間や季節の過ごし方、これらは自然の流れに沿ったものです。
実践を継続することにより、わたしと外界のエネルギーが循環していることに気づき、そしてそこに快さを感じます。
それと同時に、現代に生きながら自然の法則に沿うことの難しさを感じることもあります。
アーユルヴェーダには、大宇宙と小宇宙は同一という概念があります。
大宇宙とはこの宇宙・自然界のすべて、小宇宙は私たち一人一人のことです。
自然界と同一のエネルギーを持つ私たちは、本来、自然のエネルギー循環の大切な一つです。
自然のリズム・流れから乖離した生活を続けていると、循環が滞り不具合が生じます。
時間や季節の移り変わりを感じる時間を持つ、食事など身体に取り入れるもので大地や太陽の恵みを味わうなど、意識的に自然を感じる機会をもつことが大切です。
アーユルヴェーダは、インドやスリランカでは伝統的医療でもありますが、そこで処方されるものはハーブや鉱物など、自然界のもので作られています。
また、日本の多くのアーユルヴェーダサロンで使用されているオイルも植物から作られた自然なものです。
それらのすぐれた薬効は、現代では、数値化せれ認識されているものも多くあります。
例えば、ビタミンやポリフェノールが○○量含まれているなどの解析です。
数字や文字として目に見える分かりやすさがありますが、その分そこのみに着目しやすくなります。
同じ種類の植物でも、その育成環境や扱いによって、持つエネルギーは同じではなく個性があります。
アーユルヴェーダは、大宇宙小宇宙の滞っているエネルギー循環を改善する知恵でもあり、それがどのようなエネルギーであるかということも大切な要素です。
アーユルヴェーダの原典といわれる「アタルヴァヴェーダ」。
記述の古い箇所は、紀元前1500年頃に成立されたとされており、主に呪術的な儀式が教示されています。
当時は、医療と呪術、儀式に明確な境界線がなかったと思われますが、病気の治療や予防など医学的な記述も多く、現存する世界最古の医学書とされています。
インドのみならずギリシアや中国医学にも影響を与えたと言われており、各種の病気を治す呪文の記述に適用として、植物がどのように使われたかも書かれています。
「アタルヴァ・ヴェーダ 古代インドの呪法」
※辻直四郎訳、岩波文庫(1979)
こちらの目次をみると興味深い項目が並んでいます。
下記にいくつか記します。
・長寿のための呪文。
・頭髪の成長増進のための呪文。
・女子の愛を得るための呪文。
・夫の常任を克服するための呪文。
・性欲を増進さするための呪文。
・嫉妬から解放せらるるための呪文。
・商売繁盛のための呪文。
頭髪の成長増進を願ったり、嫉妬に苦しんだりと、 その当時も人間の持つ悩みは似たりよったりで親近感がわきます。
これらの呪文は、同時に植物が多く使われています。
その植物は、クシュタ草やピッパリなど種類を特定されているものも多いのですが、その植物を取り巻く環境を特定している記述も多くあります。
下記に、三つの呪文の「適用」箇所を引用します。
【女子の愛を得るための呪文 その一(二・三十)】
樹木から取った木片と、これにまつわる蔓草からとった木片との間に、次の物質、すなわち矢(むしろ矢柄)、スタカラから作った香油、クシュタ(薬草)、マドゥカ(同上)、暴風により根こそぎにされた草を粉末にし、アージアと混ぜて、その愛情を求めんとする婦人に塗る。
【頭髪の生長を増進さするための呪文 その二(六・百三十七)】
ニタトニーの実をその他の薬草と共に、水に満たした皿にいれ、新月の日に、施術者は黒い衣服を纏い(黒い頭髪の生長を象徴する)、黒い食物、すなわち黒い米または胡麻を食べ、星の消える時刻に、鳥のとび期たる以前に、患者の頭上に注ぐ。
【骨折を癒すための呪文(四・十二)】
燃焼するラークシャーを入れて熱した水を、星影の消える時刻に、患者に注ぐ。
プリーシャータカ(牛乳とアージアを混ぜた飲み物)を患者に飲ませ、同様の液体を患部に塗る。
~ここまでが引用~
「女子の愛を得るための呪文」の項では、木片や食物をパウダーにしてアージア(ギー)を混ぜペースト状のものを塗るとあります。
材料にはそれぞれに意味、象徴があります。
「暴風により根こそぎにされた草」は文献によると、女子の落ち着かない心の象徴です。
「頭髪の生長を増進さするための呪文」の項では、新月と特定されています。
施術者は、髪色を象徴する黒色のエネルギーで体外と体内を満たして、呪文を唱えながら注ぐとあります。
また使用される植物は深く長い根をもつ種類と書かれており、毛根を象徴しているのでしょう。
「骨折を癒すための呪文の項」では、星影の消える時刻が特定されています。
また文献によると使用されている植物は巻き付きながら上部へ伸びるものであり、丈夫に固定することを象徴していると思われます。
このように呪文と同時に使用される植物には、癒すためのエネルギーが満ちていること、また時間や空間のエネルギーなどでそれを満たすことが重視されています。
これらはアーユルヴェーダに繋がっています。
例えば、アーユルヴェーダの食事理論では、食品の持つ栄養や味だけでなく、どのような気持ちで作り、どのように食べるのかも大切にします。
めんどくさいと思いながら嫌々作る食事と、幸せを感じながら作る食事。同じ食事に見えても、心身に与える影響が違うと考えます。
食材も同様です。
太陽や土、雨など自然豊かな場所で大切に育てられた植物と、建物の中で人工的な光で育てられた植物は、栄養面は分かりませんが、持つエネルギーが同じはずはありません。
アーユルヴェーダの施術も同様です。
例えば全身のオイルマッサージ「アビヤンガ」は、滋養強壮、疲労回復、関節痛緩和など様々な効能があると同時に、丁寧に時間をかけて作られた自然のエネルギーの満ちた薬草オイルが、身体と外界の循環も促します。
施術者はその仲介の役割も担うと思っています。
施術者が邪念に満ちているわけにはいきませんね。
生活の中でほんの少しの時間、目の前にあるものがどのようなエネルギーを持つのか、「思いを馳せること」「想像すること」も自然を感じ調和することに繋がります。
とはいえ、現代的な生活で、そこばかりに着目しすぎると苦しくなるかもしれません。
アーユルヴェーダを学び実践する目的は、幸せに生きることです。
無理のない範囲で生活に取り入れて、より幸せな人生を生きましょう。
(参考文献)
Hymns of the Atharuvaveda / Ralph T.H.Griffith
ブラフ・ヤヨイ
(ガネーシャ ~ヨガ & アーユルヴェーダ~)
http://www.ayurveda-ganesha.jp/